教養としての「住宅制振装置」第八章_ 制振装置の教養として
さて、連載企画「教養としての住宅制振装置~なぜ今evoltzなのか~」第八章です。
今回の企画を始めるに際し、弊社にて、制振装置メーカーの歴史を調べてみました。
その中でわかったことは
・震災
・法律
・大手ハウスメーカーの動き
この三つが大きく影響しているということです。
また、住宅性能表示制度によって耐震等級2や3を取得した割合の推移を確認していくと、
「なぜ今evoltzなのか」
が歴史的に見えてきます。
前章では、耐震等級推移と許容応力計算について解説しました。
最終章として、制振装置について解説してまいります。
▪️制振装置の考え方について
地震対策として制振装置メーカーの考え方も変化します。
・倒壊を防ぐための制振装置 地震対策(住宅の倒壊防止)はまずは耐震
↓
・制振装置は損傷を防止する役割
2020年以降は、制振装置の新製品発売が鈍化します。
弊社は2023年に新製品evoltzB5を販売開始。
その一方で他メーカーにおいては市場から撤退していくケースも出てきました。
◾️制振装置の整理
ここで、1度制振装置に関して整理しておきます。
そもそも制振装置の果たすべき大きな目的は、構造体の損傷防止であると弊社では考えております。
そのような中で、制振装置を分類していくと
種類は大きく2種類、素材に着目すると3種類に分けることが出来ます。
例えば、大きく変形した時にダンパー部分で揺れを熱エネルギーに変換するのか
あるいは、小さな変形からダンパー部分で揺れを熱エネルギーに変換するか
どのタイミングでどの様に効果を発揮させるかというアプローチの違いが、形状や素材に影響してくるのです。
しかし、制振装置にはまだ課題が山積しています。
その課題を下記に記載していきます。
◼️制振装置の課題
1.メーカーが実施している実験やシミュレーションの前提条件が統一されておらず比較検討ができない。
特に低減率〜%という制振装置の効果を表記として使用しているケースが多く、これにより誤解が生じている。
例えば、耐震等級3の壁量で実験をし、制振装置の有無による効果(低減率)を検証した場合
・制振なし:5cm柱の頂点が揺れる
・制振あり:2.5cm柱の頂点が揺れる
結果、低減率50%という数値が出てきます。
その一方で耐震等級1の壁量で実験しているメーカーと比較すると
・制振なし:40cm柱の頂点が揺れる
・制振あり:10cm柱の頂点が揺れる
この場合は低減率75%となってしまいます。
耐震等級3は地震対策として優れているので、元々変形しにくいという前提があります。
そこに制振装置を入れると、たしかに効果があります。
しかし、耐震等級1の建物の場合、変形量/揺れ幅は大きくなりますから、
低減率だけを見てしまうと矛盾が生じてしまうのです。
制振装置の評価基準として持つべきは、
制振装置を入れたことによって、住宅の揺れ幅をどこまで抑制することができるか。
そして、住宅の損傷をどこまで防ぐことができるかではないでしょうか。
2. 2000年代に開発された制振装置がまだ流通している
住宅も常に進歩し続けており、ゼロ年代初頭の建物と比べて、現在の住宅は断熱、気密、
太陽光発電設置などに要求される性能も上がり続けています。これを満たすために、建材は日々進歩し続けています。
そして、結果として、構成部材は増加し、建物にかかる負荷、つまり住宅そのものが重くなっているということを理解しなければいけません。
しかし、制振装置はそうではありません。2010年より前に開発された製品、
つまり倒壊を防ぐための制振装置がまだ市場に流通しています。そのような制振装置は実は住宅の進化から取り残されてしまっているのです。
制振装置選定の際の判断基準の一つとして、この部分も重視する必要があるのです。
別途、弊社がよく問われる質問でも
・国土交通大臣認定品ではないのか?という質問があります。
これに関して、制振装置における国土交通大臣認定は存在しません。
壁倍率としてもカウントできるという意味で国土交通大臣認定を受けているだけです。
筋違や面材と同様に、国土交通大臣認定の壁倍率〜倍という意味です。
油圧系(evoltz)は、速度依存性という特性上、壁倍率が取得できません
認定を取得した製品が良いのであれば、通常の筋違や面材を追加した方が格安です。
上記問題をどのように解決できるのか?
2024年は制振装置にとって大きな変革の時期になります。
◾️住宅制振設計マニュアル
これは、一般社団法人 日本免震構造協会 発行、戸建住宅制振マニュアル編集協議会 編 にて
住宅制振設計マニュアルが完成しました。
※2024年7月31日現在 出版
※本協議会において、公表可能とされた情報を(株)evoltzの責任で要約
こちらは、執筆者,編成者は、下記先生方たちがです。
委員長:東工大名誉教授 笠井和彦 先生
副委員長 :東工大教授 坂田弘安 先生
幹事 :名城大准教授 松田和浩 先生
東工大准教授 山崎義弘 先生
本マニュアルが完成すると、先ほどの課題とクリアします。
・共通の尺度で制振効果を評価すること
・効く制振装置と効かない制振装置に分類する
その上で、
・どのような特性の制振装置を採用するか
が評価されるのです。
下記イメージ
内容をざっくり紹介します。
ポイント①:制振住宅の性能を「大地震(一回)時の変形角が1/75rad以下」と設定
イメージでお伝えすると、大地震がが発生した時に、
3mの壁が4cmまで変形しない建物を制振装置をつけた状態で
作られていることを1つの基準としています。
なぜ、1/75rad (3mの壁で4cmの変形が起きない)に設定したのか、
これは下記原文をそのまま引用します。
架構の損傷や残留変形が著しくない限り、
非構造体が損傷しても地震後の住宅の継続使用可能と考えており、
これと上記の傾向をふまえ1/75rad を応答変位の制限値とする
ポイント②:制振装置を3つの区分に分けたこと
今まで制振装置の比較が難しかった、そしてファーストウェーブ(2010年代)に開発された
現行の住宅にマッチしていない制振装置があるなど、課題がありました。
そこで、本マニュアルにおいて下記区分がなされました。
区分1 : 木造耐力壁と同等又は低い
区分2 : 多めの基数で目標性能を満たす制振装置
区分3 : 少ない基数で目標性能を満たす制振装置
ポイントは
① 区分1,2,3は松竹梅のような序列ではない
② 一基あたりの耐力の違いによる区分 設置した建物の耐震性の優劣を示してはいない
③ ただし、区分1は 本マニュアルでは制振壁とみなされない
つまり、これから建てるお家で制振装置を検討する場合、
まずは区分2,3を選択すべきであるということです。
◼️制振装置の教養として
ここまで、自身の歴史や法改正、それに対する地震対策はどのようにすれば良いのか、を記載してきました。
地震対策は、最低限何を行えば良いのか
・住宅制振設計マニュアルの区分2,3を使用すること
がポイントになります。
ただし、上記は大地震発生時(1回)の場合についての話です。
令和6年能登半島地震もそうですが、地震は毎日どこかで、そして大きい地震が発生した後は
震度1~4等の小さな地震が繰り返します。
そこで株式会社evoltzでは、より住宅が長持ちするように
・許容応力度計算の耐震等級3
・微振動の揺れから吸収する特性(バイリニア特性)のevoltzシリーズ
により、1/120rad (3mの壁が2.5cm傾くまでに抑える)を目標に製品開発を行っています。
制振装置だけでは地震対策はかないません。
住宅に関わるみなさまと共に、耐震+制振を行う必要があります。
正しい情報が正しく伝わり、”教養としての制振装置”がこの業界で当たり前、常識になるように
これからも発信し続けます。