【徹底解説】住宅制振設計マニュアルとevoltz制振装置の最前線

【徹底解説】住宅制振設計マニュアルとevoltz制振装置の最前線

株式会社evoltz(旧 千博産業株式会社)が制振(制震)装置業界に参入したのは2006年のことです。当初から、私たちは住宅の耐震性能を向上させるために、最適な制振装置の開発と提供に取り組んできました。

そして、2008年から自社開発を始め、当初は国内の会社に製造委託した製品を販売していました。その後ドイツ・BILSTEIN社とのアライアンス構築に成功し、2015年からは製造委託先をBILSTEIN社に変更して、国内市場に製品を提供してまいりました。 

その中で、evoltzシリーズは企画・販売がスタートしてから10年を迎えました。その間、単純な性能面だけでなく、施工性やevoltzを活用した営業戦略の構築などの面も含め数多くの工務店やビルダー、お施主様から高い評価を頂くこととなりました。 

20年近くに及ぶこれまでの長い業界経験の中で、私たちは多くの質問や要望を受けてきました。例えば、制振装置の選び方やその効果、そして住宅設計における最適な制振対策についてなど疑問は尽きません。そのような中で、住宅制振設計マニュアルという一つの指針が2024年7月31日についに発行されました。本記事では、現状の課題とこの住宅制振設計マニュアルの内容、そして私たちevoltzが提供する制振装置について解説いたします。 

目次

  • 制振装置の課題
  • 住宅制振設計マニュアルとは?
  • 制振装置evoltzが考える住宅

制振装置の課題

  1. 比較検討が難しい現状

現在、制振(制震)装置のメーカーは私たちの集計で30社以上あります。また、発売されている製品数は50を超える状況です。しかし、これらの製品を比較することは容易ではありません。その理由の一つは、各メーカーが実施している実験やシミュレーションの前提条件が統一されていないことにあります。 

例えば、 

  • 耐震等級の異なる壁量で実験が行われている。 
  • 制振装置の本数が異なる。 
  • 住宅の重量が考慮されていない。 
  • 使用する地震波が異なる。 

といった違いがあります。 

このように条件が揃っていない状態では、制振装置の性能や、製品の比較検討は非常に難解です。 

特に問題となるのは、「低減率」という指標です。 

実はこの制振装置の効果を示す指標が、誤解を招くケースが多いことです。 

例えば、耐震等級3の壁量で実験した時の場合で見ていきましょう。制振装置なしでは柱の頂点が5cm揺れるとします。
一方で、制振装置を使用することで柱の頂点の揺れ幅が2.5cmに抑えられたとします。
この場合、低減率は50%となります。 

しかし、耐震等級1の壁量で実験した場合、制振装置なしで20cm揺れた柱が、
制振装置を使用することで5cmに抑えられた場合、低減率は75%となります。

耐震等級3は元々、地震対策として優れており、変形しにくいという前提があります。そのため、制振装置を導入することで効果があるのは事実ですが、耐震等級1の建物の場合は、元々の変形量が大きいため、低減率だけを見ると矛盾が生じてしまうのです。 

このような問題を解決するためには、制振装置の評価基準として 

  • 「どれだけ住宅の揺れ幅を抑制できるか」 
  • 「住宅の損傷をどこまで防げるか」 

といった観点が重要です。

 

  1. 時代遅れの制振装置が未だに流通している

さらに、2000年代に開発された制振装置が、今も市場に流通している現状も課題のひとつです。住宅は常に進化を続けており、断熱性や気密性、さらには太陽光発電の設置などに対する要求性能も日々向上しています。それに伴い、使用される建材も進化しており、結果として住宅そのものの重量が年々増加しているのです。 

しかし、制振装置はその進化に追いついていない場合が多く見受けられます。特に2010年以前に開発された制振装置は、倒壊を防ぐための基本的な機能しか備えていないものが多く、現代の住宅の進化には対応しきれていません。これらの製品が未だに流通しているという事実は、消費者にとって大きなリスクとなる可能性があります。 

このリスクを回避するために、制振装置の選定においては、製品の新旧や開発コンセプトの違いにも注意を払う必要があります。 

特に、最新の技術を取り入れた製品を選ぶことが重要です。 

例えば、進化した建材の重量増加に対応するために、より高い制振性能が必要とされます。このことをしっかりと考慮しないと、住宅全体のバランスが崩れ、かえって地震時の被害を大きくする可能性があります。 

住宅制振設計マニュアルとは?

これまでに述べてきた課題を解決するために登場したのが、「住宅制振設計マニュアル」です。このマニュアルは、「一般社団法人 日本免震構造協会」によって発行され、「戸建住宅制振マニュアル編集協議会」によって編纂されました。2024年7月31日に満を持して発売され、今後の業界標準となることが期待されています。 

本マニュアルの執筆・編集には、東工大名誉教授の笠井和彦先生をはじめ、坂田弘安教授(東工大)、松田和浩准教授(名城大)、山崎義弘准教授(東工大)などの有識者が参加しています。これにより、制振装置の評価基準や設計指針が共通の尺度で示されることになります。制振装置の業界にとってまさにエポックメイキングとなるものであります。 

このマニュアルが完成すれば、以下のような課題がクリアされます。 

  • 共通の尺度で制振効果を評価できる 
  • 効果のある制振装置とそうでない装置を明確に分類できる 
  • 実際の使用条件に近い形で制振装置の性能を評価できる 

さらに、このマニュアルでは、どのような特性を持つ制振装置を採用すべきかについても具体的な評価が行われることになります。これは、これまでに述べたような製品選定の難しさを軽減し、消費者が安心して制振装置を選べる環境を整えることを目的としています。 

住宅制振設計マニュアルの主な内容

住宅制振設計マニュアルは、住宅の制振性能を「大地震時の変形角が1/75rad以下」と設定しています。これを具体的に言えば、大地震が発生した際に、3mの柱の柱頭部での傾きを4センチ以内にとどめる、このような住宅を制振装置を使用して実現することを目標としています。 

なぜ1/75rad(3mの壁で4cmの変形が起きない)を基準に設定したのかについては、以下のように説明されています。
「架構の損傷や残留変形が著しくない限り、非構造体が損傷しても地震後の住宅の継続使用が可能と考えており、これを踏まえた上で1/75radを応答変位の制限値とする」

 

 

また、制振装置の必要本数に応じて、以下の3つの区分に分類されています。 

  • 区分1:木造耐力壁と同等またはそれ以下の性能を持つ制振装置 
  • 区分2:多めの基数で目標性能を満たす制振装置 
  • 区分3:少ない基数で目標性能を満たす制振装置 

これらの区分は、松竹梅のような序列ではなく、必要本数や特性の違いに基づくものです。一基あたりの耐力の違いはあれども、最終的には住宅全体の耐震性能を一定の基準(1/75rad以下の変形)に抑えることが求められています。 

ただし、区分1はマニュアル内では制振装置として扱わないとされています。

マニュアルが業界にもたらす変化 

この「住宅制振設計マニュアル」は、単に評価基準を提供するだけでなく、業界全体に多くの恩恵をもたらすことが期待されています。例えば、建築業界における制振装置の標準化が進むことで、施工業者や設計者がより統一された基準で製品を選定できるようになります。これにより、消費者もより安心して住宅を選ぶことができるでしょう。 

evoltzが目指す制振住宅

株式会社evoltzとして、私たちは以下の点を重要視しています。

耐震等級と制振装置の重要性

まず、品確法に基づく耐震等級3、もしくは許容応力度計算に基づく耐震等級2または3の住宅を推奨しています。この理由は、2016年の熊本地震の被害状況の検証から見えてきた事実に基づきます。 

熊本地震では、耐震等級3の住宅は無被害もしくは一部損傷で済んでいることが確認されています。だとすれば、これから新築住宅を建てる際には、耐震等級3を最低ラインとして考えるべきです。 

次に、制振(制震)装置の採用についてです。制振(制震)装置は、住宅全体に必須ではないかもしれませんが、大地震時のダメージを抑えるためには重要な役割を果たします。また、繰り返し起こる小さな地震によって住宅の構造体(特に木造部分)が少しずつ損傷することを防ぐためにも、制振装置の導入は有効です。このことは実際に弊社が行った実験からも明らかになっています。

evoltzの技術と目標

私たちevoltzは、住宅制振設計マニュアルにおける区分2,3の制振装置を採用することを推奨しています。ただし、これらの区分に含まれる制振装置は、それぞれの技術や開発コンセプトが異なることを理解しておく必要があります。 

evoltzシリーズは、極めて小さな揺れからその衝撃力を吸収する特性(バイリニア特性)を持つ制振装置です。 

私たちは、制振装置が1/120以前の領域からエネルギー吸収をし続けることが、構造体の損傷抑制のためには重要であると考え、そのような製品の開発を行っています。この目標は、大地震発生時の一回の揺れに対するものですが、実際には地震は繰り返し発生することが多く、小さな地震が続くこともあります。こうした場合でも、evoltzの制振装置は住宅を守るために役立ちます。

 

制振装置の未来

制振装置の技術は、今後さらに進化が求められます。例えば、AI技術やIoTの進展により、リアルタイムで地震データを解析し、最適な揺れの抑制を実現する制振装置の登場が期待されています。evoltzも、こうした未来の技術を取り入れることで、さらに安全で快適な住宅環境を提供していくことを目指しています。 

しかし、制振装置だけで地震対策が完璧にできるわけではありません。住宅に関わるすべての関係者とともに、耐震+制振の住宅を実現するための努力が必要です。私たちevoltzは、正しい情報を正しく伝え、制振装置がこの業界で当たり前、常識になるように、これからも発信を続けていきます。 

この記事は、制振装置とその選定に関する現在の課題を明確に示し、また住宅制振設計マニュアルの重要性と、evoltzが目指す住宅の姿を詳しく解説しています。これを通じて、制振装置に関する理解が深まり、安心して住宅を選ぶための手助けとなることを願っています。